彼が壊れたのは

偶然であって、


必然 。





ImpazzIre AllevAre




ゆっくり、
ゆっくり

内側に飼育する狂気、に、

侵食されていく。





白い病室。
ベッドと机、椅子以外の殆どが存在しない空間にひとつだけ息づくもの。
白い病室に白いひと。
ぼぅっと、外を見るでもなく、ただ顔を窓に向けているだけだったひと―――獄寺は、開いた扉に碧の瞳を向けた。

「あ!」

虚ろだった瞳が、ぱっと輝いた。
口元がすぅ、と弧を描く。

「今日は、リボーンさん」

「・・・」

白い光にそこだけ闇を溶かしたように、リボーンが入ってきた。
無言、で。


「もうちょっと、近くに来てくださいませんか?ここからじゃ届かないので」

柔らかに語りかける獄寺に、対するリボーンの瞳はどこまでも冷たかった。


「・・・お前が、こっちに来ればいいだろう」

漸く口を開き、紡がれた言葉に、獄寺は一瞬目を見開いて、苦笑した。

「意地悪ですね、俺が立てないのを知ってるくせに」

ぱらり、と捲くられた布団の中に、存在するはずの足は、無かった。
太腿の半ば辺りで途切れて、ぐるぐると包帯が巻きつけてある。
薄っすらとみえる紅は乾いて固まっていた。


「珍しいですね。貴方が来てくれるなんて。一応恋人だって言うのに、今まで一度も来てくれなかった」

他の皆は来てくれたのに、と拗ねた様に言う姿をにらみつける。

「お前、他の奴らに何を頼んだ?」

「はい?・・・あぁ、」



侵食されている

こころのなかから、

傷口から、

じわじわと。



「殺してください、です」



「それを言ったら誰も来てくれなくなったんですよ、酷いですよね。俺の事すきだって言ったくせに」

くすくす、くすくす。

押さえた手の間から笑い声が漏れる。
狂気じみた碧は、欠片も笑んでいなあかったけれど。

「リボーンさんは俺を殺してくれますね?」


「・・・駄目だ」

「・・・え?」

帰ってきた返答が予想外だったのか目に見えて動揺する。

「なんで、ですか・・・?」

「何でも、だ。お前は生きられるだけ生きなくてはならない。喩え戦闘の出来ない、役立たずでもだ」

「・・・どうして・・・?もう役に立たないのに、戦えなくなったら意味なんて無いのに。ただ生きて、死ねと?もう何も、何も出来ないのに!!」

涙の膜が浮いた瞳を目一杯開いて、叫ぶ。

「恋人なんでしょう?貴方言いましたよね?俺は貴方の恋人だって!今までずっと、寂しいのも全部我慢したんだからそれぐらい許されたって良いじゃないですか!」

「獄寺、少し落ち着け」

「それとも貴方は、やっぱり俺が嫌いなんですか・・・?」

「そんなこと」

「嫌いなんでしょう?おかしいと思った、ずっと俺の事を嫌ってた貴方が俺と付き合ってくれるなんて!でも、それでも、嬉しかった、のに・・・!」

ぼろぼろと涙をこぼす。
リボーンはそれを、何を言うでもなく唯じっと見ていた。


「・・・言いたい事は、それだけだな?」

「え」

「理由は『お前が守護者だから』だ。勝手に死ぬことは、許されない」

言葉を紡ぐたび、獄寺の目から色が失われていく。

「分かったな?・・・じゃあな。それから、俺はお前の恋人だ。」

踵を返し、部屋を出て行こうとする耳に、一つの音が響いた。



カチャ、と。

ナイフを抜く音が。



「・・・?」


いぶかしんで振り向くと。

抜いたナイフを喉元にむける、獄寺の姿があった。

「誰も殺してくれないなら、俺が、俺が自分で、」

「待て獄寺!」

其れが刺さる寸前、阻止しようと獄寺に走り寄ったリボーンの瞳に。

にぃ、と狂った笑みを浮かべた獄寺が。
見え、た。


「ツカマエタ・・・」

ぐっ、

怪我人とは思えないほどの力で抱きしめられる。

「やっと傍に来てくれましたね、リボーンさん」

突然の事に思考が働かなかったリボーンが、それでもかなりの速さで何が起きたかを理解したときには、獄寺の喉に向いていたはずの刃がリボーンの背に突き立てられていた。


「リボーンさんが悪いんですよ?俺を素直に殺して下さらないから」

くすくす、笑い声が冷えてくる思考回路に木霊する。


「だから、ね?一緒に死にましょう?死んでくれますよね?恋人だって言って下さったじゃないですか。それぐらいのことやってくれますよね?リボーンさん」

ナイフを抜いて、同じ傷口に刺す。
ぐちゅ、ぐちゅ、と、その度に濡れた音が響いた。

「俺は貴方にとって要らないかもしれない、愛人もいらっしゃいますし。でも俺には貴方が必要なんです!だから、ね」

刺した箇所からナイフを引っ張り、裂いていく。

「一緒ですよ、ずっとずっと、一緒にいてください」

「・・ごくでら」

「はい?」


「俺はおまえが、きらい、だ」


ぴくっ、と動きを止める。

「・・・え」

「よわい、うるさい、無駄が多い、俺がきらいなタイプだ」

傷ついた、そういう顔でリボーンを見る。


「だけど俺は、そういうおまえを、」



         「あいしてた」




「―――!!」

翡翠色が大きく見開かれた。

ぱたり、と絶えた手を見て、それからナイフを見る。

「あ・・はは・・」

色を亡くした唇が歪んだ。

「はは・・ははははははは!!遅い遅い、遅すぎますよリボーンさん・・!もっと、もっと早く・・・」

嗤い声を途切れさせ、ぼろぼろと涙をこぼす。


「早く、言って下さったら、俺は、」

亡骸を抱いて、リボーンの傷口からナイフを差し入れる。
恋人の身体越しに、己へ刃を突き立てた。



「・・・愛してます、リボーンさん・・・」






飽和して、溢れた狂気は、とめられなかった。

しかし解放されたそれは、結果として何よりも幸福な最期

彼が狂ったのは。

偶然ではなく。

必然。


幸福な最期は。

偶然ではなく、




 奇跡 。


fin.





あとがき

支離滅裂も甚だしい!

熊侍様、こんなもの押し付けて申し訳ありません!

がっつりヤンデレで終わらすか(ヤンデレ?)迷ったのですが。
そっちにしとけばよかった!

あれ二人とも死にました!一応言っとくと!
もっとしっかり殺すんだった!
終わり方思いつかなくてごめんなさい。
生きててごめんなさい。
てか長ったらしくてごめんなさい!

熊侍様のみお持ち帰り可です!
返品と苦情も熊侍様のみで!


最後に、読んでくださって有難うございました!


19/4/11


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漆黒の翠蒼の傘凪様より書いてもらいましたー!

ありがとうございます傘凪様! ヤンデレ獄キタ―――! と楽しませて頂きましたv
そうですよね…本誌のリボ様のあの対応のまま時が過ぎればああなりますよね。もうリボーンさんめ! 獄に淋しい思いをさせやがって!!
大っ嫌いだと獄に言うくせに愛していたリボーンさんにきゅんきゅんです。本誌もそうだといいのに。(本気)

傘凪様、素敵なリボ獄をありがとうございました! あとがきのもっとしっかり殺すんだったには爆笑させて頂きましたv(エー!)